人名地名の新鉱物・愛媛閃石

今日は、今年IMAに承認(IMA2011-023)された原産地の県名に因む鉱物名の愛媛閃石(Ehimeite)を紹介しよう。講演要旨(日本鉱物科学会HPの口頭・ポスタープログラム←クリック!)によれば、世界に120種類以上存在するとされる角閃石中で、世界初のCrを端成分に含む非常に珍しい角閃石との事だ!早速触手を伸ばし、採集へ向けての情報収集をするが、なにぶん標高1,700mも有る愛媛県東赤石山山頂付近のクロム鉄鉱採掘跡ときたものだから、点在する赤石鉱山系のクロム鉱体を考慮すれば、問題の愛媛閃石が産するポイントが言葉や図で簡単には示せない事に突き当ってしまった。「だから諦めよう!」なんて鉱物好きの私としては簡単には済まされないところまで成ってしまった。そこで若き頃の登山経験を生かし、2日間に渡る瀬場登山口→東赤石山西赤石山→銅山越え→日浦登山口の探索縦走を計画した。登山口出発は天候を見計らい2日の早朝6時に出発し、東赤石山山頂から西の峰続きに有る東赤石山西赤石山への登山道分岐点より、ポイント探索をしながら八巻山西稜線上に到着したのが9時半頃だった。半ば疑心暗鬼のままの探索で有ったが、稜線上と南斜面に割られて散らばる多くのクロム鉄鉱、菫泥石、クロム透輝石などのカラフルな色彩に、即、産出ポイントのズリ場で有る事が分かった。早速採集を始めるものの、事前に収集していた情報通り、ズリの厚さが10〜15cm前後の非常に薄い上、先客に依って略掘り尽くされた状況で、簡単に愛媛閃石が採集出来るものでは無かった。そんな中、ズリ下部より1つ1つの鉱石を丹念に調べ、確実なものとして3個体、疑いの有るもの3個体程度の標本を夕方4時過ぎまでに得る事が出来た。その日の夜は、ビバーグを予定し、ストーブ他一通りの登山用具を持参しての採集であったが、午後5時頃に成ると一気に体感温度が下がった為、安全を優先し、八巻山南麓の山小屋「赤石山荘」での一泊を決めた。平日は管理人の居ない山小屋に入り(管理部屋のポストに利用料2,000円を封筒に入れ、投函)、翌朝までの十数時間を寝袋の中で過ごす。夜中に暴風雨にも見舞われ、早朝の外気温は今にも凍りそうな1℃まで下がり、ビバーグを断念して良かったとつくづく思ったものだ。翌朝食事を済ませ、無人の山小屋に向かって一礼し出発したのが8時過ぎだったが、昨晩の暴風雨の関係で、更にガス(霧)が濃く、視界20m前後と言ったところだ。そんな中、西赤石山に向けて出発し、一部の断崖絶壁をトラバースしながら物住頭1634mを経由し西赤石山山頂へ到着したのが11時を回っていた。当初の予定では、西赤石山山頂北西200m付近の兜岩でのクロム鉱物の採集で有ったが、この時点で更に濃いガスに覆われ、方向すらまま成らない状況の為、ここでも安全を期し泣く泣く断念し、日浦登山口へ向けての下山と成った。銅山越えからは古の住友金属の金庫であった別子銅山跡の見学を兼ね、時間を掛けてゆっくり下山し、日浦に到着したのが午後3時過ぎ、2日間掛けて約1,000mの標高差を約20km以上を歩き通した事に成った。今回の採集で思った事は、愛媛閃石の産出が極端に少なく現存数そのものが極少の上、フィールドでの略完全絶産状態とアプローチの難しさを踏まえ、「愛媛閃石」はまさしくベテラン向けの"強欲をそそる鉱物"と言え、フィールドの経験の無いビギナーコレクターにとっては間違い無く"幻的な得難い鉱物"の1つに成る事だろう。

1,682mピークから見る八巻山(手前)と東赤石山(奥)。

愛媛閃石産出ポイントから見る1,682mピーク(手前)と八巻山(奥)。

愛媛閃石産出のズリ。

東赤石山から西赤石山縦走途中の1,677mピークの断崖絶壁、ガスの中、この断崖に有るトラバース路を渡る、渡り終え振り向き様に1ショット!

愛媛閃石の標本。

愛媛閃石の結晶。

愛媛閃石の標本。

愛媛閃石の結晶。